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マロンへ

 最近、私に対するおまえの視線や態度で気づいたのだが、どうやらおまえも私に興味があるようだ、とことん甘えてくる。一見自由奔放で誰にも懐かなさそうなお前も、誰かに寄り添いたかったのだろう。

 

実は、私以外にも恋人がいることは知っている。というのも、おまえが同じ下宿先のものと街中を歩いているのを何度か目撃したからである。だけど覚えておいてほしい、おまえが気にしない限り、私もそのことを気にしない。

 

 私たちのデートコースは決まって真夜中の上人ヶ浜公園だ。わたしは誰もいないことを確認し、おまえの首輪に繋がれたリードを外す。目の前には1.7haの世界が広がり、私のことなどお構いなしに駆け抜けていく。

 

いつもその姿を見るたびに私は確信する。おまえは規律化された社会ではなく、もっともっと遠くの場所へいくべきだと。

そう考えているのに、ナニシロ、おまえの気持ちがわからないことにはどうしようもない。

残念だが、技術や学問が格段に進歩した現時点においてもおまえが使う言語の研究はあまり進んでおらず、おまえの気持ちをわたしが勝手に解釈し思い込むしか手段はないのだ。

わたしはおまえの苦しみや喜び、走っている瞬間すら本当に幸せなのかもわからない、ひたすらそうだと私自身に言い聞かせるしかないのだ

 

もし、おまえが1.7haよりももっと広い世界を見たいと望むのであれば、私はおまえと築いてきた関係をなかったことにしてお別れを告げることができる。

 

だがちょっと私の話を聞いてほしい。おまえを支配から解放させたとしても残酷な死に近づけてしまうという矛盾が生じてしまうかもしれないのだ。何もかもが管理されたこの社会ではおまえは危険視され、特別罪を犯したわけでもないのに囚われる。

数日間は牢獄のような場所に収容され、私が迎えに来るか新しい出会いがなければ理不尽な死の世界へ連れてゆかせられるかもしれない

 

だからそんな単発的な自由よりも、いつものように私と一緒に下宿先に戻らないか。